PHSとは|2020年に終了したPHSの歴史を振り返る|トラムシステム
一定の年代以上の方にはとても懐かしい言葉、「PHS」。登場に驚き、その利便性からお世話になった方も多いであろうPHSですが、2020年にその幕を完全に下ろすことが決定しました。現在では多くの若者が手にしたことはなく、存在すら知らないPHSの歴史と、果たした大きな社会的役割をご紹介します。
PHSとは
「Personal(個人の) Handy-phone(ハンディフォン) System(システム)」の頭文字をとったPHS。個人の便利な電話システムという意味です。個人の携帯電話が登場する前の時代は、電話とは家や企業、地域にひくものであり、個人が簡単に持ち歩くことができない据え置きタイプの電話が基本でした。しかし、PHSを始めとする携帯できる電話が生まれることにより、社会全体が大きく変化していきます。
携帯電話との違い
機能にも形態にも類似点が多いため、PHSと携帯電話を同一視される方もいますが、PHSと携帯電話は違う存在です。電気通信事業法上、携帯電話は無線局免許状が必要な携帯電話端末を使用しており、PHSは無線局免許状を必要としないPHS端末を使用しています。
携帯電話は広範囲を通話の圏内とする自動車電話の延長で生まれた端末であり、PHSは狭い地域を通話の圏内とする一般の固定電話の延長で生まれた端末ということです。
携帯電話は高出力電波を使用し広域に電波を届けますが、PHSは数が多い家庭用など一般的な電話回線から専用アンテナを使い半径500m程度に電波を届けるという電波の仕組み自体が違います。携帯電話とは違う電波を使用しているため、システム登録を行えばコードレス電話を親機としてPHSを子機としても利用できるなど細かな違いを利用した使い方も可能です。
PHS誕生の背景
PHSが生まれる背景には、1985年4月の通信自由化が大きく影響しています。それまで、電話などの通信事業は国有事業でしたが、民営化されることによって通信業界の競争が活発化。1985年4月に国営だった電電公社は民営化することによってNTTとして名前を変え、民間事業者も通信事業へ参入を開始します。
PHSの普及
1995年7月1日に、NTTパーソナル(当時)、DDIポケット(当時)がPHSサービスを開始し、PHSの歴史の幕が本格的に開きます。高出力の電波を出す基地局をイチから作る携帯電話は初期コストが大きくなった反面、一般の電話回線を使用したPHSは初期コストを抑えることができました。
また、当時の技術では離れた所からの電波を使用している携帯電話は電波にばらつきがあり、狭い範囲ではあるものの近所のアンテナから電波を受けているPHSは携帯電話よりも安定的にクリアな音声で通話を行うことが可能でした。
当時は、携帯電話よりもPHSの方が安定した通話が可能で、安価な値段設定だという事で評判になりました。狭い範囲で電話をかける需要が多く安価な値段がお財布に優しいという点から、PHSは特に若者を中心に大人気。PHSの通称である「ピッチ」は流行語になり、NTTやDDIといった通信会社も一般的にピッチという名称を積極的に使用していきます。
実利を求めるビジネスマンだけではなく、女性や若者の需要にも応えるためにPHSや携帯電話は小型化、お洒落化を進めていくなどの戦略をとっていき、手のひらにすっぽりと収まるサイズのPHS、携帯電話なども販売されました。
PHS最盛期
サービス開始当初はPHSと携帯電話の相互通話はできませんでした。1996年10月に相互通話が可能となった後も、PHSと携帯電話の通話では料金が割高になってしまうという点から、企業や友人、家族の間ではどちらかで連絡を取り合うかを決めるケースが多く、結果として安価なPHSの普及に拍車をかけました。
1997年当時は、まだ電話から短文のメッセージを送るポケベル(ポケットベル)が広く使用されていた時代ですが、1997年にNTTから1通10円で一定の文字数のメッセージを送れるメッセージサービスを開始したことからPHSは電話機能の枠を超え、利便性を増していきます。
PHSサービス開始から2年後の1997年には、PHS契約件数はピークである700万件超に到達。PHSの今後の展望は明るいとされており、当時の郵政省では、2010年までの契約件数予測は3300万件だとされていました。1998年には、PHS事業のNTTパーソナルは現在のNTTドコモへ営業を譲渡します。
PHSから携帯電話へ
2000年代に入ると、PHS業界はインターネット接続機能やデジタルカメラ搭載機能など様々な機能を搭載した機種を次々と販売し、PHSは利便性を高めていきます。当時は新機種が出るたびに、PHSの新しい機能が話題となっていました。
しかし、同時期にそれまではPHSと比べて割高であった携帯電話がコストカットを行い、安価な携帯電話モデルを次々と発表。繋がりやすく安定しており安価な携帯電話が一般的な存在となっていったため、若者でも気軽に携帯電話を持てる環境となり、PHSは急激に契約件数を減少させていきます。
PHSの導入が多い業界
個人個人が携帯電話を所有し衰退してくPHSですが、独自の狭い電波という点を利用した社内ネットワークとしての利用もされています。
PHSの利用が特に多い業界は医療業界です。病院などでは、強い電波を受ける携帯電話の使用が制限されていたこともあり、お医者さんや看護師さんたちの多くはプライベートでも個人的にPHS利用率が平均よりも高かったとされています。
元々、病院内は固定電話システムのみで運用されていましたが、同じ電波を利用するPHSをそのシステムに組み込む病院も存在しています。忙しい病院内のスタッフの方々は、毎回固定電話の場所に行き受話器をとって連絡を受け、連絡を出すという作業を行っていました。
しかし、PHSがあれば内線の連絡は手元にあるPHS端末から行えます。ナースコールも緊急呼び出しの連絡も端末から受けることができるため、患者さんの待ち時間を減らすことができ負担を軽減させることが可能です。また、端末には受発信の日時や名前といった履歴が残るため記録のミスを無くすことができ、ナースコールの履歴からコールの見落としも無くなります。
PHSの終息
高速化、大容量化するモバイル通信時代において、安定してはいるものの弱い電波を利用するPHSは取り残されていきました。
ソフトバンク・ウィルコムが2020年7月末に個人向けサービスを終了することでPHSの幕は下りますが、それ以前から他のPHSを取り扱う企業のサービスは終了していました。国有企業であった電電公社の後を継いだNTTドコモは、2005年4月30日に新規契約受付を終了し2008年1月7日にサービスを終了、さらに着メロを生んだアステルは2005年7月28日に新規契約受付終了、2006年12月20日にはサービスを終了しています。
そして最後まで残っていたソフトバンク・ウィルコムも2018年3月31日に新規契約受付を終了し、2020年7月末にサービス終了を決定しました。2000年代の需要落ち込みから需要が回復することはなく、PHSの個人向けサービスの終了は既定路線だったのです。
PHSの今後
PHSの需要が落ち込んだ後は、フィーチャーフォンと呼ばれる携帯電話が一般的となり、スマートフォンへと主流が変更されていきました。
ソフトバンク・ウィルコムでは2020年7月末にPHSサービスは終了しますが、現在使用しているユーザーのアドレスは変わることなく、今後はスマホなどへ移行できるという発表がありました。また、変更時の契約手数料は無料です。愛着を持っている番号と一緒に、思い出も引き継ぐことができるでしょう。
引き継がれる「IoT」
近年活発になっている「IoT」産業ですが、IoTのパイオニアとも呼ばれる機能もPHSでは搭載されていました。DDIポケットから名前が変わり、現在ではソフトバンクの傘下となったウィルコムではユニークなIoTサービスが行われていました。
- カーナビ専用サービス
専用機種をカーナビへセットすればネットワークを通じ、双方向情報サービスが利用可能。すべての会員のデータの走行データを共有することにより、効率的なドライビングルート情報を入手できます。
- おしらせ窓センサー
専用器具を窓に貼り付けることで、窓を誰かが明けた際に「おしらせメール」を受け取ることができます。お手軽ホームセキュリティーサービス。
現在ではスマホなどで行っているこれらのサービスは、PHSの時代から始まっていたのです。身近な存在だからこそできたPHSのIoTサービス機能は、その後の技術にも生かされています。近年ではクラウドを利用したネットワーク管理へ移行されています。
まとめ
現代において高速化、大容量化、広範囲化は技術の進歩とともに進んでおり、今後もその傾向は続くとされています。しかし、PHSが担っていた狭い範囲のネットワークシステム自体の需要は増加しており、特に企業では社内ネットワークの効率化・円滑化が求められています。
個人が携帯電話やスマホを使用し個々に連絡をとる形態よりも、クラウド上で仕事のやり取りを一括管理することで、より効率的なビジネスネットワークの構築を理想とする企業も多く存在します。ドメスティックな電波利用の需要は、まだまだ消えていません。
WRITER
トラムシステム(株)メディア編集担当 鈴木 康人
広告代理店にて、雑誌の編集、広告の営業、TV番組の制作、イベントの企画/運営と多岐に携わり、2017年よりトラムシステムに加わる。現在は、通信/音声は一からとなるが、だからこそ「よくわからない」の気持ちを理解して記事執筆を行う。